水平線とプール面が一本の線で重なる景色を、今や日本のリゾートでも見ることができる。インフィニティプール——あるいはインフィニティエッジ・プール——は、シンガポール、バリ、プーケットといった2000年代のアジア・リゾート建築が育てた設計言語だった。それが日本の海岸線や都市の縁にも翻訳されはじめたのは、2010年代後半のことになる。本稿では沖縄本島、宮古島、伊豆、東京湾岸、京都の5地点を順に巡り、水と地平の関係をどう日本の風土が引き受けたのかを書く。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。

水平線へ消える縁——アジアから日本へ

インフィニティプールは、1960年代末にフランスの建築家ジャン=マックス・ルランの設計したパレ・ブルゴンに発する。建築史としての起源は欧州だが、リゾート建築の語彙として定着したのは2000年代のアジアだった。バリ島ウブドの渓谷、シンガポールの摩天楼の屋上、プーケットの岩棚——温帯から熱帯にかけての景観に、水平の鏡面が貼り重ねられていった時代である。設計の核は単純で、プールの下流端を視点の高さに合わせて切り、その先にもう一段下のリザーバーを置く。視覚的にプールの水と海の水、あるいはプールの水と空とが、一本の線で接続される。

日本のリゾート建築は長く、海と建物の関係を「庭」や「露天風呂」を介して結んできた。だから日本にインフィニティプールが入ってきたのは比較的遅く、ハレクラニ沖縄のオープン(2019年)あたりが本格的な定着点とされている。それ以前にも例はあったが、外資系のリブランドや新規開業に合わせて2010年代後半から急速に増えた。同時に、日本固有の文脈——温泉文化、密度の高い都市湾岸、京町家の水盤——が、この借り物の設計言語をやや別のものに翻訳しはじめてもいる。以下、5軒を辿る。

1. ハレクラニ沖縄 — 恩納村

珊瑚礁の上に建つワイキキ生まれのリゾートが、日本でインフィニティプールという語を一般化した一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  360室、リゾートホテル。

目安価格 ¥109,000–¥190,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ハレクラニ沖縄 — 恩納村 名嘉真湾 · 珊瑚礁の上に張り出す全長360室のリゾート
PHOTO: ハレクラニ沖縄 — 公式サイトを見る →

ワイキキビーチで1917年に始まったハレクラニの、世界二軒目の宿。恩納村名嘉真の敷地に5つのプールが配される構成は、ハワイ本家には無い大きさで、ランドマークの「オーキッドプール」を中心に、屋外プールと屋内プールが海へ向かって伸びていく設計が目を引く。プール縁から見ると、エメラルドの内海と、その奥の濃いインディゴの外洋が、二段のグラデーションを描いて視野に入る。日本における「インフィニティプールのある宿」という認識のかなりの部分は、開業時のメディア露出を通じてこの一軒が形作った——そう書いても誇張にはならない。

運営面では「Halekulani(=天国にふさわしい館)」というハワイ語のブランド名そのままに、ハワイ本家のフラッグシップと同等のサービス水準を維持している。一棟まるごとオーシャンフロントで、客室バルコニーからも水平線が見える。料金は他の沖縄リゾートと比べて高めの帯にあるが、その水準でしか達成できない静けさ、客室密度、ランドスケープのスケールがある。集約レビューの傾向では、滞在体験そのものへの高い評価が支配的で、星評価は安定して4.7〜4.8の範囲に集まる。

2. シギラベイサイドスイート アラマンダ — 宮古島

宮古島南岸、約140万坪の広大なシギラリゾートに置かれた174室の全室スイート棟。SLH加盟。

Media Picks Score: 90 / 100  174室、オールスイート・リゾート。

目安価格 ¥89,000–¥152,000 / 泊 (2名1室・通常期)


シギラベイサイドスイート アラマンダ — 宮古島上野 · 珊瑚礁の沖を望むビーチサイド・インフィニティプール
PHOTO: シギラベイサイドスイート アラマンダ — 公式サイトを見る →

宮古島の南海岸、サンゴ礁が外洋を遮ってラグーンを形成する地形に建つ。「シギラセブンマイルズリゾート」と総称される複合敷地の中の高層棟で、全174室がスイート仕様、うち85室は客室付帯のプライベートプールを持つ。撮影された写真の主役になるビーチサイドプールは、白い砂の小径と珊瑚礁の浅瀬の上に張り出す形で、プール水面と内海と外洋の三層が重なる。バリ島やプーケットで2000年代に試みられたラグーン型インフィニティの、宮古島における直系の翻訳といっていい。

SLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド)に加盟しており、国際リゾートの語彙で読まれることが多い。集約レビューでは食事面・接客の評価が高い一方、規模が大きいぶんパブリックエリアの混雑が話題になる傾向もある。同じ敷地内の温泉施設「シギラ黄金温泉」へのアクセス、専用カートでの島内移動を含めると、滞在は実質的に「島」を借りる感覚に近づく。

3. ホテル&スパ アンダリゾート伊豆高原 — 伊東市八幡野

バリ島の意匠を伊豆高原へ移植した、アジア・リゾート様式の日本側の早い実装例の一つ。

Media Picks Score: 90 / 100  68室、温泉リゾート。

目安価格 ¥54,000–¥78,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ホテル&スパ アンダリゾート伊豆高原 — 伊東市八幡野 · 夜のエントランス。バリ島の意匠を伊豆の地形に移植した温泉リゾート
PHOTO: ホテル&スパ アンダリゾート伊豆高原 — 公式サイトを見る →

2003年開業。伊豆高原の山と海の双方を見下ろす斜面に、バリ島のプライベートホテルを下敷きにした意匠で建つ。インフィニティプールという厳密な定義からは少しずれるが、相模灘へ視線を伸ばす露天風呂と石組みの水盤群は、日本のリゾート建築が「水と地平の重なり」をどう咀嚼したかの早い例として書き残せる一軒だ。沖縄本島や宮古島で見るような硬質のモダンではなく、ガムランの聞こえる音響、ティーク材の家具、レリーフ越しに見る海——という構成。設計言語としては”アジア・トロピカルの内陸版”とでも呼べる翻訳である。

集約レビューでは温泉と食事への評価が安定して高く、リピーター比率も高い。沖縄系のインフィニティと違って「水平線に消える縁」の厳密性は弱いが、宿全体を「水で囲む」という設計思想は確かに通っている。東京から特急で2時間という距離感もあり、日本における「アジア・リゾート様式」の入り口として今も読まれている。

4. ラビスタ東京ベイ — 江東区豊洲

東京湾と摩天楼に向けて切られたインフィニティ・エッジの天然温泉。プールと湯船の境界が崩れた都市側の解。

Media Picks Score: 89 / 100  582室、湾岸シティリゾート。

目安価格 ¥34,000–¥63,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ラビスタ東京ベイ — 江東区豊洲 · 最上階のインフィニティ・エッジ天然温泉と東京湾岸の摩天楼
PHOTO: ラビスタ東京ベイ — 公式サイトを見る →

2020年開業。豊洲の市場の隣に建つ14階の最上階に、東京湾と勝鬨橋、晴海・築地方面の摩天楼を見渡す天然温泉大浴場が置かれた。プールではなく温泉として運用されているが、水面の縁を視点と水平に切り、湯と都市を一枚の鏡面につなぐ設計は、明らかに2010年代以降のインフィニティプールの語彙を借りている。日本のリゾート建築が、海外で確立された設計言語を「裸で入る温泉」に翻訳した最も大胆な例の一つと書ける。

運営はビジネスホテル系の共立リゾート系統で、ラグジュアリー帯ではないが、湯のスケール、24時間入浴可、湯上り処の演出など、設計の中心に「湯」がある。集約レビューでは湯の景観・サウナ・夜泣きそばといった夜の動線が高く支持される一方、客室自体は標準的という声も目立つ。リゾートとしての厚みより、設計の一点突破——プールと湯と都市夜景の合流——を体験するための一泊。

5. HOTEL THE MITSUI KYOTO — 中京区二条油小路

二条城に隣接する三井家旧宅地に建つ161室。サーマルスプリングSPAは、京都が出した「水盤の翻訳」の答え。

Media Picks Score: 95 / 100  161室、ラグジュアリーホテル。

目安価格 ¥210,000–¥361,000 / 泊 (2名1室・通常期)


HOTEL THE MITSUI KYOTO — 京都市中京区 · サーマルスプリングSPAの水盤。京都の地下から湧く天然温泉を屋内プールへ翻訳した設計
PHOTO: HOTEL THE MITSUI KYOTO — 公式サイトを見る →

2020年11月開業。三井家北家がおよそ250年にわたり保有してきた京都の邸宅地、二条城北側の油小路に建つ。建物の地階に設けられたサーマルスプリングSPA——水着着用で入る温泉プール——は、海でも空でもなく、京都の地下水脈という第三の水を視点とする。インフィニティプールが本来持っていた「水と水平の重なり」を、京都の風土が「水と地中」に置き換えた翻訳と読める。岩肌を内装に立ち上げ、滝のような落水を中央に置く構成は、リゾート建築というよりむしろ庭園文化の延長である。

「EMBRACING JAPAN’S BEAUTY」を掲げるブランドコンセプトのもと、二条城に向く中央庭園を囲んで5つのレストラン・バーが配される。集約レビューは全体に5段階4.6以上の高い帯で安定し、滞在の質感、和食「TOKI」やイタリアン「FORNI」での食、SPAの設計、いずれにも高い評価が並ぶ。料金帯は本稿で取り上げる5軒のなかで最も高いが、設計密度と歴史的レイヤーへの投資の濃さは抜きん出ている。

翻訳の系譜——海・湾・地中

5軒を辿り直すと、インフィニティプールという設計言語が、日本のなかで少なくとも三つの方向に翻訳されているのが分かる。ひとつは沖縄本島と宮古島が示す、アジア・リゾートの直系——珊瑚礁の上、プール水面と外洋を視覚的に重ねる正統な構文。もうひとつは伊豆のアンダリゾートが示す、バリ島意匠の内陸版——プールの縁を厳密に切ることより、宿全体を水で囲む思想を引き継ぐもの。三つ目は、東京湾岸ラビスタと京都HOTEL THE MITSUI KYOTOが別々の文脈で出した解で、それぞれ「プール=温泉/湯船」「プール=水盤/庭園」へと、日本の風土が借り物の語彙を組み替えてしまった例である。

2010年代後半の本格的な導入から数年が経ち、インフィニティプールはすでに新規開業時のキャッチフレーズではなくなりつつある。むしろ次の問いは、この設計言語を引き受けたあとに、日本のリゾート建築が「水と地平の関係」をどこへ運ぶか——その後段にあるように思える。

よくある質問

Q. インフィニティプールがある日本のリゾートは何軒くらいありますか?

A. 厳密な定義で集計した公的データは無いが、2010年代後半以降に「インフィニティプール」を主要設備として公開している宿は、本稿で扱った5軒を含め、沖縄本島・宮古島・伊豆・関東湾岸・北海道ニセコ・京都を中心に20〜30軒ほど。これに「インフィニティ露天風呂」「インフィニティ温泉」と呼ばれる解釈を加えると、規模はさらに広がる。

Q. プールに入れるのは夏だけですか?

A. 沖縄本島・宮古島は通年で温水運用の宿が多く、4月から11月までは外気温的にも快適に泳げる。伊豆は冬季クローズの宿が一般的だが、温泉露天は通年。東京湾岸ラビスタは温泉なので通年。HOTEL THE MITSUI KYOTOのサーマルスプリングSPAは屋内で通年。

Q. 子連れでも利用できますか?

A. ハレクラニ沖縄、シギラベイサイドスイート アラマンダはともに子連れ対応のプールを別途持つ。ラビスタ東京ベイは温泉のため幼児の入浴可否は施設のルールに従うことになる。HOTEL THE MITSUI KYOTOのサーマルスプリングは水着着用、子連れ利用の制約は宿に確認するのが確実。

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 沖縄本島・宮古島は5〜6月の梅雨明け前後と10〜11月が、混雑と気候のバランスで読みやすい。伊豆は秋。東京湾岸ラビスタと京都HOTEL THE MITSUI KYOTOは通年型だが、京都は11月の紅葉期、4月の桜期は予約が早期に埋まる傾向。

Q. 海外からの旅行者の利用は?

A. ハレクラニ沖縄、シギラベイサイドスイート アラマンダ、HOTEL THE MITSUI KYOTOの3軒は英語対応の運営水準が高く、海外メディアの掲載も継続している。アンダリゾート伊豆高原は日本人客の比率が高い。ラビスタ東京ベイは都市部の利便性から訪日外国人の予約も増えつつある。

本記事の参考情報

JNTO 日本政府観光局 — 各エリアの観光基本情報
Wikipedia: インフィニティプール — 設計史と語源

編集部から

水平線にプールが消える設計を、宿側が「絶景」と書きたくなる気持ちは分かる。けれど読者として旅をするとき、本当に印象に残るのは、その縁が切られた角度、水位、視点の高さ——つまり建築の意思のほうである。本稿で並べた5軒は、それぞれに違う風土でその意思を表現していて、どれが優れているという問いには意味がない。次に書きたいのは、インフィニティプールがある宿、ではなく、水と建物の関係そのものを問う宿——たとえば瀬戸内のヴィラ、能登の岬、屋久島の谷あい、といったあたりだろうか。

次に読むなら