竹芝桟橋を真夜中に出た大型客船が、夜明けとともに伊豆諸島中段の白い渚へ滑り込む——神津島の多幸湾、式根島の石白川、新島の羽伏浦。本州から南へ百数十キロ、東京都でありながら太平洋の只中に浮かぶ三島を、夏の高速船と村営航路で繋いで渡る4泊5日の旅程である。各島で迎えてくれるのは、十室前後の家族経営の宿ばかり。海の透明度がそのまま滞在の記憶になる、そんな島渡りの4軒を選んだ。

# 宿 Score 室数 1行特徴
1 山下旅館 別館 神津島 86 14 島で数少ない天然温泉。星空保護区の夜空を望む海辺の宿
2 湯ったり宿 ひだぶん 式根島 93 8 石白川海岸まで徒歩1分。海食洞の野湯へ最も近い一軒
3 漁師宿 かねやま 式根島 83 9 船主が営む漁師宿。その日の海から上がった魚が食卓に並ぶ
4 旅舘 大野屋 新島 91 11 本村の港至近。羽伏浦の白砂へ歩いて向かえる郷土料理の宿

※ Media Picks Score は公開レビューデータを集計し、立地・規模・テーマ適合度を加味した編集部独自の指標です。本記事の小規模な島宿は公開販売価格の集計対象に十分なデータがなく、目安価格の掲載は控えています。

竹芝桟橋から南下し、神津島→式根島→新島と渡る行程。地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます

Day 1–2 | 神津島

竹芝を23時台に出た大型客船は、翌朝の光のなかで神津島・多幸湾に錨を下ろす。湾の水はガラスのように澄み、砂浜から数メートル先まで海底の白が透けて見える。天上山の裾に広がる集落で、最初の二夜を過ごす。

1. 山下旅館 別館 — 神津島

島で数少ない天然温泉を引く宿。星空保護区に認定された神津の夜が、湯から仰ぐ空を満たす。

Media Picks Score: 86 / 100  14室、家族経営の温泉旅館。


山下旅館 別館 — 神津島 · 1965年創業、島で数少ない天然温泉を引く海辺の旅館
PHOTO: 山下旅館 別館 — 公式サイトを見る →

この宿を選んだ理由

神津島は温泉に恵まれた島ではなく、自家の湯を持つ宿は数えるほどしかない。山下旅館別館はその一軒で、潮の香りを残した塩化物泉が一日の塩気を洗い流す。長く続く家族経営の運営は、島の暮らしの延長のような距離感。海を望む客室と、村が掲げる「星空保護区」の夜空——光害の少ない神津では、宿の前から天の川がそのまま立ち上がる。

滞在から見えてくること

公開レビューデータを集計すると、温泉と夕食の魚、そして家庭的な接客への評価が島内でも上位に集まる。一方で、建物は新しさより年季を感じさせる造りで、洗練されたリゾートを求める旅には向かない。島の時間に身を委ね、湯と海と星を等価に楽しむ人にこそ、滞在の輪郭が見えてくる宿である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    温泉と星空を旅の軸に置く人、多幸湾の透明度を目当てにした夏の滞在、島の暮らしに溶け込みたい一人旅・カップル
  • 向かない:
    新築リゾートの設備を望む人、海が荒れる時季に確実な就航を求める旅程、食の選択肢の多さを重視する旅

具体情報

  • 立地: 神津島港から徒歩圏(送迎あり)、多幸湾・前浜海岸へアクセス良好
  • 客室: 全14室、海を望む和室を含む
  • 温泉: 自家源泉の塩化物泉(島内では希少)
  • 食事: 島の魚を中心とした夕食・朝食付きが基本
  • 創業: 1965年
  • 夜空: 神津島は星空保護区(ダークスカイ)に認定


Day 3 | 神津島 → 式根島

三日目の朝、村営の連絡船または高速船で北へ。神津島から式根島までは海路で小一時間ほど。式根は周囲十数キロの小さな島だが、海岸線に天然の温泉が湧き、潮が引くと岩場の湯舟が姿を現す。海と湯の境界が曖昧になる島で、三夜目を迎える。

2. 湯ったり宿 ひだぶん — 式根島

石白川海岸まで歩いて1分。海食洞に湧く野湯へ、島で最も近い場所に立つ一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  8室、家族経営の島宿。


湯ったり宿 ひだぶん — 式根島 · 石白川海岸まで徒歩1分、地鉈温泉など海辺の野湯に近い小宿
PHOTO: 湯ったり宿 ひだぶん — 公式サイトを見る →

この宿を選んだ理由

式根島の魅力は、海岸に湧く天然温泉にある。なかでも地鉈温泉は、岩が裂けたような海食洞の奥に潮と混じり合う湯が満ち、潮位によって温度が変わる。ひだぶんはその湯場や石白川海岸まで徒歩圏に立つ宿で、水着のまま歩いて野湯へ向かえる距離が何より大きい。8室の小さな宿ながら、一人旅向けの部屋からファミリー向けの和洋室、バリアフリーのツインまで揃え、迎え入れる旅人の幅が広いのも特徴である。

滞在から見えてくること

公開レビューデータを集計すると、立地の良さと運営の細やかさへの支持が群を抜く。海から戻ってすぐ汗を流せる動線、島の食材を生かした食事、宿主の島案内——そうした積み重ねが評価に表れている。観光施設の少ない式根では、宿そのものが旅の質を決める。ひだぶんはその役割を引き受けている一軒だと言える。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    海辺の野湯巡りを目的にした旅、一人旅から家族連れまで、設備より立地と滞在の手触りを重んじる人
  • 向かない:
    ホテル並みの匿名性を求める人、夜の街の賑わいを期待する旅、コース料理のような格式ある食事を望む滞在

具体情報

  • 立地: 石白川海岸まで徒歩約1分、海辺の温泉エリアへ近接
  • 客室: 全8室。和室・和洋室・ドミトリー・バリアフリーツインなど多様
  • 食事: 島食材を生かした食事(素泊まりプランも選択可)
  • 近隣の湯: 地鉈温泉・松が下雅湯など海岸の天然温泉が徒歩圏
  • 滞在の目安: 海と湯を行き来する1〜2泊が中心


3. 漁師宿 かねやま — 式根島

船主自らが営む漁師宿。その日の海から上がった魚が、迷いなく食卓に並ぶ。

Media Picks Score: 83 / 100  9室、漁師が営む民宿。


漁師宿 かねやま — 式根島 · 船主が営む漁師宿、近海で獲れた魚介の夕食が持ち味
PHOTO: 漁師宿 かねやま — 公式サイトを見る →

この宿を選んだ理由

同じ式根でも、ひだぶんが海と湯への近さを軸にするなら、かねやまは食を軸にした宿である。宿主が自ら船を出す漁師宿で、その日の漁次第で食卓の顔ぶれが変わる。決まったメニューがない代わりに、近海で上がったばかりの魚が刺身や煮付けで供される。式根の小さな集落のなかでも、海の恵みを最も直に味わえる一軒として選んだ。

滞在から見えてくること

公開レビューデータを集計すると、料理の鮮度と量、そして気取らない人柄への評価が中心に並ぶ。設備は簡素で、全室にエアコンとWi-Fiが整う程度の島宿らしい構え。豪華さではなく、漁師の家に招かれたような距離感を求める旅人に響く。ひだぶんと組み合わせ、二泊目を食重視で過ごす選択も式根らしい。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    島の魚をその日のうちに味わいたい人、素朴な民宿の空気を楽しめる旅、釣りや海遊びを軸にした滞在
  • 向かない:
    固定メニューや食事制限への細かな対応を前提にする旅、洗練された客室設備を求める人、静かな個室主義の滞在

具体情報

  • 立地: 式根島の集落内、海岸・温泉エリアへ徒歩圏
  • 客室: 全9室、全室エアコン・テレビ・Wi-Fi完備
  • 食事: 漁師宿ならではの近海魚を中心とした夕食
  • 予約: 電話受付が中心(夏季は早期に満室となる傾向)
  • 運営: 船を出す宿主による家族経営


Day 4 | 式根島 → 新島

四日目、式根島から新島へは連絡船でわずか十数分。隣り合う二島だが、表情はまるで違う。新島の東岸には、羽伏浦海岸の白砂が南北に七キロ近く延びる。コーガ石という淡い色の火山岩が島の建物や石塀に使われ、白い砂と白い石が太陽を反射して、島全体が明るい。最後の夜は、港と浜の双方に近い本村で過ごす。

4. 旅舘 大野屋 — 新島

本村の港至近に立ち、羽伏浦の白砂へ歩いて向かえる。郷土料理で名を知られた一軒。

Media Picks Score: 91 / 100  11室、家族経営の旅館。


旅舘 大野屋 — 新島本村 · 港・海・羽伏浦に近く、新島の郷土料理で知られる家族経営の旅館
PHOTO: 旅舘 大野屋 — 公式サイトを見る →

この宿を選んだ理由

新島の玄関口・本村にあり、港から近く、羽伏浦海岸へも歩いて向かえる立地が旅程の締めくくりに合う。広く落ち着いたロビーを構え、新島の郷土料理を出す宿として島内で名を知られてきた。客船・高速船の発着に合わせて動きやすく、最終日の朝に荷物を抱えて慌てる必要がない——島渡りの最後を任せる宿として、立地と運営の安定感を評価した。

滞在から見えてくること

公開レビューデータを集計すると、料理と立地、そして家庭的なもてなしへの支持が安定して高い。建物自体は華美ではないが、港と浜の双方に近いという離島では得難い条件が、評価を底上げしている。新島は若いサーファーから家族連れまで層が幅広く、大野屋はそのいずれにも開かれた構えを持つ。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    港と海岸の両方に近い拠点を求める人、新島の郷土料理を味わいたい旅、家族連れやサーフィン目的の滞在
  • 向かない:
    リゾートホテルの設備や眺望を最優先する旅、繁華な夜の選択肢を望む人、完全な静寂のみを求める滞在

具体情報

  • 所在地: 東京都新島村本村6-4-17(港・スーパー近く)
  • 客室: 全11室、エアコン・テレビ完備、室内トイレ付きの部屋あり
  • 食事: 新島の郷土料理を取り入れた家庭的な料理
  • 海岸: 羽伏浦海岸(全長約7km)へ徒歩圏
  • アクセス: 本村港から近く、客船・高速船の発着に対応しやすい立地


Day 5 | 新島 → 竹芝桟橋

最終日は、新島から客船または高速船で本州へ戻る。高速船なら昼過ぎには竹芝、客船ならゆっくりと航跡を眺めながらの帰路となる。四泊五日で三島を渡り、神津の透明、式根の湯、新島の白を順に体に通したあとでは、東京湾に入る船から見える都市の輪郭が、来たときとは少し違って見える。

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 海開きの7月から残暑の9月上旬までが、海と温泉を最も楽しめる時季。とりわけ7月下旬から8月は海の透明度が高く、編集部が推す中心の時期である。一方でこの期間は客船・高速船とも早くに満席となり、宿も同様に埋まる。盆を外した7月上旬や9月は、やや落ち着いて島を歩ける。

Q. 三島はどう移動しますか?

A. 本州側の起点は竹芝桟橋。大型客船は夜行で南下し、神津島・式根島・新島へ寄港する。島と島の間は高速船や村営の連絡船で結ばれ、式根島〜新島は十数分、神津島〜式根島は小一時間が目安。便数は季節と海況で変わるため、最新の時刻表で確認したい。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 泊まることができる。今回の4軒はいずれも家族経営の小規模宿で、子連れの受け入れに慣れている。式根島のひだぶんは和洋室やバリアフリーツインを備え、新島の大野屋は港・海岸の双方に近く、小さな子ども連れの動線が短い。遠浅の海岸も多く、家族旅行の選択肢になる。

Q. 英語は通じますか?

A. 小規模な島宿が中心のため、流暢な英語対応を前提にはしにくい。ただし式根島・新島は海外からのサーファーや旅行者にも知られた島で、観光協会が英語の情報を整えている。簡単な英語と翻訳アプリがあれば、滞在に大きな支障はないだろう。

Q. 最低何泊が必要ですか?

A. 三島を一つの行程で渡るなら、最低でも4泊5日を見ておきたい。各島で1〜2泊し、海況による船の遅延・欠航の余裕も含めての日数である。神津島か新島のいずれかに絞れば2〜3泊でも成立するが、中段三島の海の違いを味わうには、駆け足にしないほうがいい。

本記事の参考情報

神津島観光ガイド(神津島観光協会) — 神津島の宿・交通・星空保護区の情報
式根島観光協会 — 式根島の海岸温泉・宿の情報
新島村観光案内所 — 新島・羽伏浦海岸・コーガ石の情報
Wikipedia: 式根島 — 地理・地鉈温泉などの背景

編集部から

神津・式根・新島の三島は、地図上ではひと固まりに見えても、海の色も湯の質感も島の素材も驚くほど異なる。それぞれを別々に訪ねる旅も豊かだが、一本の航路で続けて渡ると、海が少しずつ表情を変えていく連続が体に残る。今回選んだのは、その変化を最前列で受け止める小さな宿ばかり。設備の数ではなく、海や湯や食との距離で宿を選ぶ——離島の旅では、その物差しが結局いちばん正確なのかもしれない。次はどの海から潜りはじめるだろうか。