梅雨が明ける直前、リゾートの読書空間が変わり始めている。客室から本を持ち出して、別棟の図書室で、ソファに沈み込むようにして読む——そんな滞在の作法を、Aman や Six Senses といった国際ブランドが少しずつ定着させてきた。本を読むためだけの建物を、敷地のなかにわざわざ建てる。書架の向こうに庭が見える。窓は北向きで、午後でも紙が焼けない。本記事では、日本国内で「ライブラリー」を客室の外に出した三つの国際ブランドリゾートを取り上げ、その設計思想を見比べる。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

客室の外に、本を置くということ

リゾートホテルが客室にミニライブラリーを設えるのは、ここ十数年で珍しくなくなった。バスローブの隣に三冊か四冊、土地の文化に絡む写真集や随筆が置かれる。あれはあれで、滞在の彩りになる。だが国際ブランドの一群が近年提示しているのは、もう一段先の作法だ。本を読む空間そのものを、客室の外、独立した建物として用意する。

そこには動機がいくつかある。ひとつは、客室を寝室に純化させること。眠りに向かう場と、思考が動き出す場を分ける。もうひとつは、共有空間でありながら静謐を保つこと——ロビーやバーとは違う、声を出さないことが暗黙の作法となる場所をつくる。そして三つ目は、土地の自然と書物を出会わせること。窓の方角、書架と外光の関係、ソファの向きが、その敷地ごとに違う表情を生む。

Aman 京都——森と書架の縦の関係


アマン京都 — 京都・鷹峯 · 北山の森に佇むパビリオン群、ライブラリー併設のリゾート
PHOTO: アマン京都 公式サイトを見る →

アマン京都(Aman Kyoto) Media Picks Score: 88 / 100 26室・京都市北区・2019年開業。目安価格 ¥502,000–¥584,000/泊。

北山の鷹峯(たかがみね)に二万四千平方メートルの森を抱える。敷地の中央にある共用棟が、ライブラリー的な役割を担う。書架は深い木で組まれ、ソファは庭の苔と杉木立に向く。北向きの窓から入る光は一日を通して柔らかく、紙のページを焼かない。雨の日、森の苔が濡れて色を増す午後、本を一冊抱えてここに来る。そういう滞在の組み立てが想定されている。書物は日本文化、建築、庭、茶、香りに関するものが中心で、英語と日本語が混ざる。客室は森の奥にパビリオンとして散在し、本を持って戻ることもできるし、ここで読み終えて部屋に戻ることもできる。動線の選択肢が、滞在に自由を与える。

Amanemu——海から戻った午後のための一室


アマネム — 三重・志摩 · 英虞湾を見下ろす森のなか、Aman 初の温泉リゾート
PHOTO: アマネム 公式サイトを見る →

アマネム(Amanemu) Media Picks Score: 93 / 100 28室・三重県志摩市・2016年開業。目安価格 ¥291,000–¥547,000/泊。

伊勢志摩国立公園のなか、英虞湾(あごわん)を見下ろす丘陵に建つ。Aman として日本で二軒目、温泉を持つ最初のプロパティとして開いた。スイートと二棟一組のヴィラが、いずれも独立した屋根を持つ。共用棟のライブラリーは、湾から戻った午後に向く設計だ。海風と日差しを浴びた後の体を、深い椅子と低い天井が受け止める。本は伊勢神宮、海女、真珠養殖、志摩半島の自然誌に強く、地理を読み解きながら滞在を編み直せる構成になっている。日が傾いて湾の色が紫から藍に変わるまでの一時間、誰もが声を落とすこの部屋で過ごす——それが Amanemu の滞在の核のひとつだ。

Six Senses 京都——東山の路地の奥、二十四節気と書物


シックスセンシズ京都 — 京都・東山 · 妙法院の参道脇、2024年開業の新世代リゾート
PHOTO: シックスセンシズ京都 公式サイトを見る →

シックスセンシズ京都(Six Senses Kyoto) Media Picks Score: 95 / 100 81室・京都市東山区・2024年4月開業。目安価格 ¥121,000–¥305,000/泊。

東山、妙法院の参道脇という都市型立地。81室は前二軒より大きいが、敷地の動線設計はリゾートのそれを継いでいる。ライブラリーは Earth Lab という名前で、サステナビリティと土地学習のハブを兼ねる——だが実態は、二十四節気を軸にした書物と工芸、季節の素材が並ぶ静かな部屋だ。窓は中庭側に開き、街の音は届かない。前二軒との違いは、本がより「学ぶための」性格を帯びることだ。植生図、京野菜の歳時記、町家の建築様式。読みながらメモを取るための机が用意され、滞在のなかで一冊を深く読み込む使い方を想定する。価格帯も三軒のなかでは最も入りやすく、ライブラリー文化を初めて体験する旅人にもこの一軒は開かれている。

三軒を見比べて——書架の方角、ソファの配置、外光

三軒のライブラリーは、それぞれの土地の気候と地理に応じて、まったく違う姿をしている。アマン京都は森の苔に向き、北山の湿った緑が一日中ページに反射する。Amanemu は湾の方角に開き、午後の海光が低い椅子に届く。Six Senses 京都は中庭の植栽に閉じ、街の喧騒から距離を取る代わりに、二十四節気という時間軸のなかに書物を置く。共通するのは、書架が「装飾」ではなく「動線」として設計されていること。客室を出てここに来る、そして戻る——その往復が滞在の核に据えられている。

もうひとつ共通するのは、家具の選定にかける手間だ。三軒とも、深い座面のソファが複数種類用意され、姿勢を変えて長く滞在できる。机は窓に向くもの、壁に向くもの、両方ある。明かりは天井からの面光源ではなく、卓上の点光源が中心。夜の灯を落とす作法がしっかり考えられている。

梅雨明け前後を勧める理由

この三軒のライブラリーが最も真価を見せるのは、雨の日と、雨上がりの午後だ。京都の北山が湿気で霞む朝、英虞湾に細い雨が斜めに落ちる夕方、東山の路地が雨上がりに濡れて光る黄昏——いずれも、外に出るより部屋を移ることのほうが楽しい時間帯がある。客室から本を持ち出し、共用ライブラリーで読む。読み終えたら、また客室に戻る。この往復が、雨の日のリゾート滞在を退屈から救う。梅雨明け前後の六月下旬から七月にかけて、三軒それぞれに行ってみると、設計の差がはっきり見えてくる。

よくある質問

Q. 三軒とも英語対応していますか?

A. はい。三軒とも国際ブランドのリゾートとして、英語スタッフを常駐させている。Aman 京都・Amanemu はとくにインバウンド比率が高く、滞在客の半数以上が海外からの旅行者である時期もある。Six Senses 京都は開業から間もないが、東山という立地もあり海外宿泊客の比率は高い。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 三軒とも子連れ宿泊は可能だが、ライブラリーは静寂を前提とした空間のため、小さな子どもがいる場合は客室での読書を案内されることがある。家族旅行の場合、客室ヴィラ(独立棟)が選べる Amanemu が最も自由度が高い。

Q. 最低何泊から滞在を考えるべきですか?

A. Aman 京都・Amanemu は二泊以上、できれば三泊を編集部は推す。一泊ではライブラリーまでたどり着く前にチェックアウト時間が来る。Six Senses 京都は都市型なので一泊でも完結はできるが、Earth Lab のプログラムを体験するには二泊あったほうがよい。

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 本記事のテーマであるライブラリー利用に限れば、梅雨明け前後(6月下旬–7月上旬)と、初冬(11月下旬–12月上旬)。雨の日の屋内動線と、夕方の早い時間帯から灯を落とす作法が、いずれも設計の意図を最大限に引き出す。

Q. 三軒のなかでまずどこに行くべきですか?

A. 価格帯と滞在難易度のバランスで、Six Senses 京都が入口として最も適している。Aman の世界観を体験したいなら Amanemu(伊勢志摩)、京都という都市と Aman の組み合わせに惹かれるならアマン京都。三軒は補完関係にあり、いずれかを起点にもう一軒を計画する旅行者も少なくない。

本記事の参考情報

Aman — Our Story — ブランドの設計思想とプロパティ全体像
Six Senses — About Us — Six Senses のサステナビリティと Earth Lab 思想
Wikipedia: 伊勢志摩国立公園 — Amanemu の立地する自然公園の概要

編集部から

客室と切り離されたライブラリーは、リゾート滞在における「移動」の意味を変えた。バスローブを羽織って数百メートル歩き、別の建物のソファに沈み込む——その儀式のような時間が、現代のラグジュアリーリゾートの差別化要素となっている。三軒それぞれの書架の前に立ち、ページを開く前のひと呼吸を感じてほしい。次に書きたいのは、同じ国際ブランドが「茶室」や「香りの間」をどう客室の外に出しているか、その設計の変遷についてだ。

次に読むなら