夕暮れに、客室のカーテンを開けた瞬間、視線の先にプールの水面があって、その向こうにそのまま空が続いている——日本の国際ブランド・リゾートでは、ここ数年、屋上プールを建物の中央装置として配置する設計が増えてきた。海抜ゼロからの水平インフィニティではなく、地上40m〜200mの高層に水を持ち上げ、客室の窓と同じ高さで水面を空に開く文法。本稿では、24階・4階・38階・40階という異なる高さでそれぞれのプールを配置した4軒を、建築・方位・水温・縁の処理という視点から静かに辿ってみたい。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。

1. 高層階に水を持ち上げるという文法

かつて屋上プールは、ホテルの「おまけ」だった。デッキの片隅に小さな矩形を切り、夏季限定で開ける。それが、2020年代の国際ブランド・リゾートでは設計の中心軸になりつつある。建物の最上層に水を据えて、ロビーやレストランより上に置く。客室は、その水面と同じ高さに並ぶ。窓を開けて見下ろすのではなく、視線の高さで水と街が交わる。海外資本の設計者は、これを「sky pool」「rooftop infinity」「emerald pool」など、それぞれの方言で呼ぶ。共通するのは、水面が空に開かれていること。縁の処理が、ただの矩形ではないこと。そして、客室から最短距離で辿り着けることだ。

以下、大阪・東京・福岡の4軒を、設置階の低い順に読んでいく。

2. ザ・リッツ・カールトン福岡——18階、博多湾を遠く望む25mの線

福岡大名ガーデンシティタワーの上層階。客室階の頂点に25mのプールが伸び、博多湾の向こうまで視線が抜ける。

Media Picks Score: 94 / 100  167室、都市プレミアム。

目安価格 ¥144,000–¥213,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ザ・リッツ・カールトン福岡 — 福岡市中央区大名・大名ガーデンシティタワー上層階の25mインドアプール、博多湾を望む
PHOTO: ザ・リッツ・カールトン福岡 — 公式サイトを見る →

2023年6月、福岡市中央区大名に開業。大名ガーデンシティタワーの18階にホテルロビーが配置され、客室階はその上に積まれている。プールは最上層に据えられた25mのインドアスイミングプールで、博多湾を遠望する位置にガラス壁が落ちる。屋上といっても完全な外気開放ではなく、ガラスで囲った室内プールである点が、福岡という都市の気候——夏の湿度、冬の北西風——への設計上の答えになっている。水面と窓の間にガラス一枚を挟むことで、年間を通じた利用が成立する。客室の頂点から、もう一段だけ上がる移動でプールに辿り着く動線設計は、外資ブランド系の都市ホテルでは比較的新しい文法に属する。

地上18階を起点にして客室階が積まれているため、最低でも地表から70m以上にプール水面がある計算になる。福岡という都市は、博多湾と背振山地に挟まれた帯状の平野に広がるため、上層階からの視界には海と山が同時に入る。サンセットの方位は季節によって変わるが、夏至前後の夕陽は博多湾側へ落ちる。プールの長軸がその方位と平行に切られていることで、水面に反射光が長く伸びる時間帯が生まれる。

3. W Osaka——27階、安藤忠雄設計の黒い箱に開いた水面

御堂筋の黒い箱、地上27階。WET DECKと呼ばれる屋上プールが、心斎橋の街並みを足元に水平に伸びる。

Media Picks Score: 92 / 100  337室、ラグジュアリー・ライフスタイル。

目安価格 ¥78,000–¥113,000 / 泊 (2名1室・通常期)


W Osaka — 大阪・心斎橋御堂筋・安藤忠雄設計の27階建てラグジュアリーライフスタイルホテルの屋上プール WET DECK
PHOTO: W Osaka — 公式サイトを見る →

2021年3月、御堂筋に開業。Wブランドの日本第一号として、安藤忠雄が外観を設計した。黒い直方体の塔が、御堂筋のイチョウ並木の上に立ち上がる。建物は地上27階建てで、4階のフィットネスフロアにWET BARと屋内プールWET、隣接する屋外テラスWET DECKが置かれている。屋外テラスWET DECKと屋内プールWETの組合せは、御堂筋の南北軸に対して直交する形で切られ、街路樹と同じ目線で街並みが水面の向こうに広がる。安藤建築特有の幾何学的な抑制が、プールの矩形にも引き継がれていて、装飾を排したコンクリートとガラス、そして水だけが、低層階から空に向かって開かれている。

27階という建物の総高は、大阪の都心ホテルではちょうど中庸の高さに当たる。あべのハルカスのような超高層ではなく、街の屋根を見下ろせる距離感である。プールは4階のフィットネスフロアに置かれ、御堂筋のイチョウ並木と同じ目線で水と街が並ぶ。屋外テラスWET DECKは夏季限定で開放され、屋内プールWETはガラス壁越しに通年営業。夜になると御堂筋の街灯がガラス越しに水面へ届き、ライフスタイル路線ならではの空気が低層階で立ち上がる。Wブランドの遊び心が、安藤建築の禁欲性とどう交差するか——その答えが、4階の水と27階の建物総高の対比として置かれている。

4. コンラッド大阪——40階、中之島フェスティバルタワーに据えられた水

中之島フェスティバルタワー・ウエスト33-40階。地上200mの上空にインドアプールが据えられ、淀川と大阪平野を一望する。

Media Picks Score: 95 / 100  164室、ラグジュアリー。

目安価格 ¥95,000–¥173,000 / 泊 (2名1室・通常期)


コンラッド大阪 — 大阪・中之島フェスティバルタワー・ウエスト40階ロビーから望む地上200mのスカイライン、インドアプール併設
PHOTO: コンラッド大阪 — 公式サイトを見る →

2017年6月、中之島フェスティバルタワー・ウエストの上層階に開業。33階から40階までをホテルが占有し、40階にロビーが置かれている構成は、東京のアンダーズやマンダリンと同じ「最上階ロビー」の文法だ。プールはインドアで、フィットネス・スパと一体となった構成。地上200mの上空に水を据えているため、水深方向にも視線が抜ける——水中から見上げると、ガラス天井の向こうに大阪の空が広がる、という体験設計になっている。淀川と中之島、その先の大阪湾までを一望する立地は、関西の都市ホテルの中でも屈指の眺望だ。

コンラッド大阪のプールが屋外ではなく屋内である点は、設計上の選択として読み解ける。地上200mの風と、季節を問わない通年利用のバランスを、ガラスの内側に水を置くことで取った。長軸は南北方向に切られ、淀川の流路と並行する。プールサイドのソファに座ると、視線の高さに41階・梅田スカイビル・あべのハルカスが交互に並ぶ。「40スカイバー&ラウンジ」が置かれる最上40階の二層下、38階のコンラッド・スパ&フィットネスクラブにプールが配置されているため、夕方から夜にかけて、ロビー階のバーカウンターと38階の水面が、わずかな落差で同じ淀川と中之島の景色を切り取る。中之島という立地が持つ、川に囲まれた静けさが、この高さで再現される。

5. ブルガリ ホテル 東京——41階、エメラルドのモザイクが沈む25m

東京ミッドタウン八重洲40-45階。25mのプールがエメラルドのモザイクタイルで覆われ、東京駅と日本橋を見下ろす。

Media Picks Score: 95 / 100  98室、最高峰ラグジュアリー。

目安価格 ¥265,000–¥329,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ブルガリ ホテル 東京 — 東京・八重洲・東京ミッドタウン八重洲40-45階の25mインドアプール、エメラルドモザイクタイル
PHOTO: ブルガリ ホテル 東京 — 公式サイトを見る →

2023年4月、東京ミッドタウン八重洲の40階から45階に開業。ブルガリのジュエリーブランドとしての文脈を、建築の素材に翻訳することがホテル全体のテーマで、プールがその象徴に据えられている。25mの直線プールは底面と側面をエメラルドグリーンのモザイクタイルで覆い、水越しに見ると宝石の透過光に近い色彩が生まれる。プールは41階のスパフロアに配置され、ガラス壁の向こうには東京駅と日本橋、その先に皇居の杜が連なる。東京の中心都市風景を、エメラルドの水越しに眺める構成だ。

イタリアの建築思想がここで興味深く展開する。地中海のラグーンが持つ色彩記憶を、東京の高層階に持ち込むという発想。エメラルドのモザイクは、ローマ時代の浴場やヴェネツィアのサンマルコ寺院のテッセラから連なる伝統素材であり、それを地上180m超の現代タワーに据え直している。プールの長軸が東京駅丸の内側を向いて切られているため、朝の光と夕方の光で水面の表情が大きく変わる。98室という小ぶりな客室数は、利用密度を抑える設計でもあり、プールが混雑しにくい構造になっている。

6. 縁の処理、方位、水温——4軒を並べて見える設計言語

4軒を並べて読むと、屋上プールの設計に共通する言語が見えてくる。第一に、縁の処理。インフィニティエッジを採用するのは海辺のリゾートに多いが、都市の高層階では、水面と都市風景の間にガラスを一枚挟む方式が優勢だ。福岡もコンラッドもブルガリも、ガラス壁越しに水と街が出会う。屋外開放のW大阪だけが、安藤建築の禁欲的なコンクリート縁で水を切り、空気そのものを縁にしている。これは大阪という都市の気候——梅雨と台風と猛暑が等価に襲ってくる土地——を踏まえた設計判断だろう。

第二に、方位。福岡は博多湾、W大阪は南北の御堂筋軸、コンラッドは淀川の流路、ブルガリは東京駅丸の内側。プールの長軸が、その街の最も意味のある方位に揃えられている。これは偶然ではなく、設計段階で意図された構造である。サンセットがどの方向から水面に落ちるか。朝日がどの角度で水面を切り上げるか。一日のうち最も水が「動いて見える」時間帯を、設計者は計算している。

第三に、水温。屋内プールはおおむね28〜30℃、屋外も同等に保温されているが、福岡のヴァイタリティプール、コンラッドのインドア、ブルガリのエメラルドプールはいずれも年間を通じて利用できる温度設計になっている。屋外プールであるW大阪のWET DECKは、夏季の方が利用密度が高いが、冬季も水温は維持されている。「屋上の水」を季節限定のレジャー設備から通年の建築装置に変えること——これが、2020年代の国際ブランド・リゾートに共通する野心だ。

7. 海外客の到着動線と、夕暮れの過ごし方

海外からのゲストの動線も、屋上プールの設計に影響している。長距離フライトのあと、ホテルに到着して、シャワーを浴びて、最初に行く場所がプールであるケースは少なくない。時差で目が冴える夕方〜夜の時間帯に、客室の窓と同じ高さで水に入り、街を見下ろしながら泳ぐ。これは「観光」とは別の、滞在型の楽しみ方だ。福岡もコンラッドもブルガリも、プールサイドに長時間滞在できるソファとデイベッドが用意されている。泳ぐためのプールではなく、水と街を同時に体験するためのプールである。

サンセットから夜への移行時間が、4軒のプールが最も表情を変える瞬間だ。日没の45分前から日没後60分まで、約1時間45分間。水面の色が、太陽光の波長変化に従って、青→紫→朱→藍へと推移していく。屋外のW大阪では空気の温度変化を直接感じられるし、ガラス越しの3軒では、水と街の色が同じ速度で変わっていく様子を、水中から眺めることになる。盛夏〜初秋、日没が遅い時期に滞在すると、この時間帯の長さが最も伸びる。

よくある質問

Q. プールは宿泊者以外も利用できるか?

A. 4軒とも基本的に宿泊者専用で、年齢制限を設けているケースが多い。W大阪のWET DECKは16歳以上、ブルガリ ホテル 東京のプールも子供の利用には制約がある。リッツ・カールトン福岡は時間帯によって家族利用枠と大人専用枠が分かれている。詳細は各公式サイトを確認のこと。

Q. 屋外プールと屋内プール、どちらを選ぶべきか?

A. 季節と過ごし方による。盛夏に空気そのものを縁にした水を味わうならW大阪の屋外。年間を通じて安定した水質と街の眺望を味わうならコンラッド・ブルガリ・リッツ福岡の屋内。屋内であっても上層階のガラス壁が広い構成のため、視界の開放感は屋外と大差ない。

Q. ベストシーズンは?

A. 屋外のW大阪は5月〜10月が水と空気のバランスが整う時期。屋内3軒は通年利用できるが、日没時間が長い6〜8月の夕方から夜にかけてが、水面の色の変化を最も長く味わえる時間帯になる。冬季は空気の透明度が上がり、上層階からの夜景が最もシャープに見える。

Q. 英語対応は?

A. 4軒とも国際ブランドの直営または運営委託で、英語対応はホテル全体に行き渡っている。チェックイン、コンシェルジュ、プールサイドのサービスも英語で問題なく利用できる。ブルガリ ホテル 東京とリッツ・カールトン福岡はイタリア語・中国語対応も期待できる。

Q. 子連れで利用したい場合は?

A. リッツ・カールトン福岡は家族利用に最も寛容な設計で、時間帯によって子供連れも利用できる。W大阪とブルガリ東京は年齢制限が比較的厳しい。コンラッド大阪は時間帯と運用次第なので、事前に確認するのが確実だ。

本記事の参考情報

W Osaka 公式サイト — 27階建て、安藤忠雄設計の建築情報
コンラッド大阪 公式サイト — 中之島フェスティバルタワー・ウエスト33-40階の構成
Bvlgari Hotel Tokyo 公式サイト — 八重洲タワー40-45階の客室・スパ情報
The Ritz-Carlton Fukuoka 公式サイト — 大名ガーデンシティタワー18階上層の構成

編集部から

屋上プールが客室の窓と同じ高さに揃う、という設計言語が、ここ数年で日本の都市ホテルに広がってきた。海辺のリゾートが採用してきたインフィニティエッジとは別の文法で、垂直に積み上げた建築の頂点に水を据える。視線の高さで水と街が交わる体験は、滞在の意味を変える。観光地を巡って戻るのではなく、ホテルそのものに留まって、夕暮れと夜の移行を水面と一緒に過ごす——そういう滞在の時間が、これからの都市ホテルの軸になっていくのかもしれない。

次に読むなら