湯けむりの立つ斜面を車で登りきった標高約350mの棚に、別府湾へ真東に開いた89室のリゾートが立っている。ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ。2019年8月、日本最大級の湧出量を持つ温泉都市の丘に、インターコンチネンタルが世界で初めて温泉をテーマに据えたリゾートとして降ろした一軒である。海と街と山を同時に抱える敷地に、延床14,357㎡を89室だけで使う。1室あたり約161㎡という数字が、この宿の設計思想をほとんど言い切っている。秋、湯の季節の入口に、その丘を室数と方角と標高から読む。


ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — 別府・明礬の高台 · 別府石の巨石と杉ルーバーの傘を配した1階露天風呂から、別府市街と別府湾を望む夕景
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

丘の位置——標高352m、湾は東、国東は北北東

住所は大分県別府市大字鉄輪字申川499-18。鉄輪の地名を持ちながら、宿自身は所在地を「明礬(みょうばん)と呼ばれるエリア」と記す。別府八湯のうち鉄輪と明礬、二つの湯場の境をなす斜面の上に敷地があるからで、施工者である清水建設の記録も「別府鉄輪地区」と表記している。境界の上に立つ宿、という位置づけがまず面白い。

国土地理院の1mレーザ測量による数値標高モデルで敷地の標高を引くと、352.6m。別府市街の中心が海抜10m前後であることを思えば、街を340mほど見下ろす棚に建っていることになる。テラスから真東に落ちる視線の先が別府湾で、湾の北岸は日出町(北東・直線約9km)から杵築(北東・約19km)へ弧を描き、その先、北北東およそ28kmに国東半島の山塊が低く横たわる。テーマに掲げた「対岸の国東」は、正確には正面ではなく視界の左端に置かれた輪郭である。右手、南東約9kmには高崎山の丸い影が海へ迫り出す。朝の光はこの湾の面から来て、夕方には背後の扇山の稜線が街の側へ影を伸ばしていく。

歴史と建築——2018年1月着工、既存棟を残したエントランス

建物は清水建設の設計・監理・施工による。同社の記録では発注者は AQUA HEAVEN(東京センチュリーと清水建設投資開発本部が出資する合同会社)、工期は2018年1月から2019年6月、構造はRC造とS造、規模は地下1階・地上4階、延床面積14,357㎡。清水建設はこの案件を「インターコンチネンタルホテルズグループとして世界初となる、温泉をテーマとしたスパリゾート」であり「大分県としても初となる五つ星ラグジュアリーホテル」と説明している。設計担当は同社の石谷貴行。

数字を割り戻すと輪郭が見えてくる。14,357㎡を89室で割れば1室あたり約161㎡。客室そのものの最小面積が62㎡だから、残りのおよそ100㎡分が廊下・浴場・プール・スパ・厨房・バックヤードに割かれている計算になる。地上4階という低い箱に89室を収めたことは、この宿が「塔を建てずに横へ寝かせた」ことの結果でもある。

もうひとつ、清水建設の記録には見落としやすい一行がある。エントランスは既存建物を改修して用いた、というものだ。更地に一から積んだのではなく、丘にあった建物の骨格を引き取って玄関に転用している。そこに地元産の木材を貼り、内装・家具・備品には別府竹細工をはじめとする地場の工芸品とアート作品を差し込んだ。1階の露天風呂に据えられた別府石の巨石と、湯船の上に開く杉ルーバーの傘は、この方針がもっとも視覚的に表れた場所である。


ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — 標高約350mの丘 · 別府市街と別府湾に向かって水面が切れるインフィニティプール
PHOTO: ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — 温泉・スパ・プール →

89室の内訳——山を向く客室と、湾を向く客室

客室は62㎡から212㎡まで。最小のクラシックが62㎡(室内49㎡+テラス13㎡)、クラシック シティビューとクラブインターコンチネンタルが68㎡(室内52㎡+テラス16㎡)、プレミアムスイート96㎡、ジュニアスイート102㎡、パノラマ1ベッドルームスイート145㎡(室内99㎡+テラス46㎡)、最大のパノラマ2ベッドルームスイートが212㎡(室内151㎡+テラス61㎡)という構成である。日本のリゾートホテルで最小客室が62㎡という設定は、それ自体が強い宣言に近い。

ここで前提を一つ訂正しておきたい。89室すべてが海を向いているわけではない。宿の記述に従えば、クラシックの窓はエントランスの向こうに広がる山々へ、クラシック シティビューは扇山へ向く。床から天井までの全面ガラスの先に置かれるのは、海ではなく緑の稜線である。一方、クラブインターコンチネンタルキング/ツインは全面窓から別府湾を望み、テラスには湾に向かって湯を張るプライベート露天風呂が付く。つまりこの宿の89室は、山を見る部屋と海を見る部屋に分割されている。丘の上のリゾートが引き受けた地形上の必然であり、予約時にもっとも効く分岐でもある。

上位のスイートは1フロアに1室のみ。パノラマ1ベッドルームは46㎡、2ベッドルームは61㎡の円形テラスを角に持ち、露天風呂とバーカウンター、ソファを屋外に配する。2ベッドルームには4畳半の本格的な茶室が組み込まれ、リビングにはフランク・ロイド・ライトの照明が下がる。別府竹細工、箔、漆、組子の格子戸。国際ブランドの標準仕様と日本の工芸が折り合った地点が、この部屋にもっとも濃く出ている。なお、テラスの露天風呂に温泉が引かれるのはクラブ客室と一部スイートで、プレミアムスイートの露天風呂には上水を用いる旨が明記されている。「露天風呂付き」と「温泉の露天風呂付き」は、この宿では別の意味を持つ。


ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — パノラマ1ベッドルームスイート · 円形テラスに設けられたプライベート温泉露天風呂と扇山の稜線
PHOTO: ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — スイート客室 →

湯——大浴場は1階にある。泉質は塩化物泉

客室の露天風呂ばかりが語られがちだが、この宿には1階に大浴場がある。別府石を組んだ露天風呂から市街と別府湾を見渡し、内湯は檜と石造りの2種を日替わりで入れ替える。男女入替制は1日単位。浴場内にはスチームまたはドライのサウナが併設される。宿泊者は無料、日帰り利用は平日 ¥2,600、土日祝 ¥3,600。

泉質について、宿の掲示は一つの手がかりを残している。源泉を一時停止する場合には近隣の別府温泉を供給することがあり、それは「泉質は当館と同等の塩化物温泉」である、と。明礬というと酸性の硫黄泉の白濁を思い浮かべる人が多いが、宿は自館の湯を明礬エリアの「美肌の湯」と案内し、泉質は塩化物泉にあたる。別府八湯が「八つ」に分かれるほどの湯の多様さは、丘の上の敷地一つのなかにも及んでいる。

湯まわりはほかに、最大6名・1時間 ¥20,000(延長1時間 +¥10,000、利用は2時間まで)のプライベート温泉(家族風呂)、水温27℃を通年維持するインフィニティプール(冬季は9:00–17:00開放)、そしてタイ発のハーンによるスパ。スパのラウンジへ続く白い長い廊下には「The Void -無-」の名が与えられている。スパの利用は13歳以上に限られる。

食——4階のフロアと、鮨「豊後前 霧翠」

レストランは4階に集まる。オールデイダイニング「エレメンツ」はメインディッシュを選ぶセミビュッフェ形式で、朝食もここ。シグネチャーの「アトリエ」は地元食材による「おおいたフレンチ」を掲げ、ワインペアリングと組む。同じ階に「ザ・バー」。加えて鮨「豊後前 霧翠」、2階の「ザ・ラウンジ」(TWG tea のアフタヌーンティー)、1階プール脇の「アクア」がある。エグゼクティブシェフの工藤賢二は大分県出身で、バンクーバーの Le Gavroche、サンフランシスコの CHAYA Brasserie を経て、2019年の開業時からアトリエのヘッドシェフを務め、2023年に現職に就いた。日田市の井上酒造と組んだオリジナルの日本酒も置く。

ひとつ補足しておくと、地熱の蒸気で蒸す「地獄蒸し」はこの宿の館内メニューではない。宿は地獄めぐりや地獄蒸しを周辺で体験できるものとして案内している。鉄輪は地獄蒸しの本場であり、丘を下りればその湯気に行き当たる。館内の食と街の食は、意識的に切り分けられている。

立地と周辺——空港から45km、駅からシャトルで25分

大分空港からの距離は約45km。東九州自動車道の別府ICまで約40分、ICから県道11号・500号で約10分。タクシーなら約50分で料金の目安は約15,000円。別府湾SAのスマートIC(ETC専用)からも約10分の位置にある。鉄道ならJR日豊本線で大分駅から別府駅まで約14分、小倉駅からは約1時間14分。別府駅からはタクシーで約20分・約3,000円、宿のシャトルで約25–30分(ホテル発10:30から16:30まで毎時、別府駅発11:00から17:00まで毎時、乗車定員6名・予約優先)、亀の井バスのAPU線・サファリ線なら ¥430、新港町経由APU線は ¥510 で「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ前」に停まる。

実務的な注意も一つ。宿は、地図アプリで敷地南側に表示される蛇行した道路が私有地で通行止めである旨を明記している。自走で向かうなら県道側から入る経路を確認しておきたい。駐車場は無料で140台、バレーサービスがあり、電気自動車用の充電設備は置かれていない。


ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — クラブインターコンチネンタル ラウンジ · 別府竹細工と組子細工を取り入れた内装
PHOTO: ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ — クラブインターコンチネンタル →

集約レビューが映すこの宿の像

公開レビューデータを集計すると、この宿の評価は九州のリゾート帯の上位に安定して位置する。傾向として繰り返し立ち上がるのは、丘という立地そのものと、1階に湯・プール・スパを束ねた導線への支持である。標高が生む視界と、館内で完結する滞在の設計が、評価の中核をつくっていると読める。

一方で、集約された傾向は分岐も示す。客室タイプによって体験の質が明確に分かれること、そして街の温泉場から車で降りる必要がある立地が、旅程の組み方によって評価を上下させること。別府の湯めぐりを主目的に据えた滞在と、丘の上で完結させる滞在とでは、同じ宿に対する読後感が変わる。価格帯が九州のリゾートとしては上限に近いことも、期待値の置き方を左右している。数字の背後にあるのは、「何を目的にこの丘を選ぶか」という一点だと言ってよい。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    宿から出ずに2泊を組みたい旅、国際ブランドの標準仕様と日本の温泉を同時に確かめたい旅行者、記念日の滞在、英語での予約と滞在を前提にする海外からの旅人、客室に温泉の露天風呂を求める2名旅
  • 向かない:
    別府八湯の共同浴場を歩いて巡ることを主目的にする旅程(丘から街まで車で降りる必要がある)、客室から必ず海を見たいが最下位カテゴリーで予約したい場合(山側になる)、ペット同伴の旅(盲導犬・介助犬を除き不可)、電気自動車で充電を宿に頼る旅程

具体情報

  • 所在地: 大分県別府市大字鉄輪字申川499-18(標高 約352m)
  • 客室: 89室 / 62㎡〜212㎡(バリアフリー客室はクラシックツイン1室)
  • アクセス: 大分空港から約45km・車で約50分 / JR別府駅からシャトルで約25–30分、タクシー約20分
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 朝食は4階「エレメンツ」でセミビュッフェ / 夕食はフレンチ「アトリエ」、鮨「豊後前 霧翠」ほか
  • 温泉: 1階大浴場(別府石の露天風呂+檜・石の内湯を日替わり、男女入替制)、泉質は塩化物泉
  • プール: インフィニティプール、水温27℃で通年利用可(冬季 9:00–17:00)
  • 駐車場: 無料140台・バレーサービスあり(EV充電設備なし)
  • 子ども: 12歳以下1名まで添い寝可、エキストラベッド ¥12,000/泊、ベビーベッド等の貸出あり
  • 言語: 公式サイトは日本語・英語・韓国語・簡体中文の4言語
  • 開業: 2019年8月1日(設計・施工 清水建設 / 延床14,357㎡ / 地下1階・地上4階)

Media Picks Score

94 / 100 — 内訳は、公開レビューデータの集約値(評点と件数の二軸)に、編集部による適合度の加点を合わせたもの。加点の根拠は、国際ブランドとしての識別性、テーマである「別府湾を望む高台」との立地一致、そして客室露天風呂・大浴場・インフィニティプール・スパという湯まわりの厚みにある。九州のリゾート帯では最上位に近い水準に位置づけた。

目安価格 ¥79,000–¥89,000 / 泊 (2名1室・通常期)

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 編集部が推すのは10月から11月上旬。別府湾から立ち上がる朝の光が最も澄み、丘の上でも屋外のテラスに長く座っていられる気温になる時期です。夏はインフィニティプールとカバナが主役になり、冬はプールが9:00–17:00の短縮運用に切り替わる一方で、湯気の立ち方が最も濃くなります。標高約352mの丘は市街より数度低いため、秋以降は羽織るものが要ります。

Q. 全ての客室から別府湾が見えますか?

A. いいえ。クラシックとクラシック シティビューは扇山など山側を向き、別府湾を正面に望むのはクラブインターコンチネンタルとスイートのカテゴリーです。テラスに温泉の露天風呂が付くのもクラブ客室と一部スイートで、プレミアムスイートのテラス風呂には上水が使われます。海と湯を客室で得たい場合は、カテゴリーの選択がそのまま体験を決めます。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 泊まることができます。1つのベッドにつき12歳以下の子ども1名まで添い寝が可能で、エキストラベッドは1泊 ¥12,000。ベビーベッド、ベッドガード、ベビーバス、子ども用の浴衣と下駄の貸出があります。ただし制約もあり、クラブラウンジの17:00以降の利用は13歳以上、スパは13歳以上、プールは12歳未満の場合は宿泊者かつ保護者同伴に限られます。

Q. 英語や中国語での滞在は問題ありませんか?

A. 公式サイトは日本語・英語・韓国語・簡体中文の4言語で運用され、インターコンチネンタルの国際予約網に接続しています。館内表記とサービスも国際ブランドの標準仕様に沿っており、海外からの旅行者が単独で滞在を組み立てやすい環境です。空港送迎の手配や周辺のガイドツアーはコンシェルジュが扱います。

Q. 日帰りで温泉やプールだけ使えますか?

A. 使えます。日帰り利用は大浴場のみが平日 ¥2,600、土日祝 ¥3,600、インフィニティプールまで含めると平日 ¥4,600、土日祝 ¥5,650(いずれも宿泊者は無料)。大浴場は未就学児無料・6歳から11歳は半額で、プールの日帰り利用は12歳以上に限られます。ただし日帰り客は別府駅からのシャトルを事前予約できず、当日空席がある場合のみ案内される運用のため、路線バス(亀の井バス、¥430〜)か車での往復を前提に組むのが確実です。

本記事の参考情報

ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ 公式サイト — 客室構成、面積、温泉・スパ、料飲、アクセス、料金体系
清水建設 施工実績 — 発注者、設計・監理、工期、構造・規模、延床面積
国土地理院 — 数値標高モデル(1mレーザ測量)による敷地標高および方位・距離の算出

編集部から

この一軒を読み解く鍵は、結局のところ「高さ」に集約される。標高352mという数字は、別府という温泉都市が長く海沿いと湯場の谷筋で完結してきた歴史に対し、丘を新しい滞在の場所として提示した宣言でもあった。街から340m上がると、湯けむりは足元の風景に変わり、別府湾は視界の一部になり、国東半島は北北東の輪郭として現れる。同じ湯の街にいながら、見えるものが入れ替わる。

その代償として、湯めぐりの徒歩圏からは離れる。丘に上がるか、街に降りるか——別府の滞在は、いまその二択を持つようになった。どちらを選ぶかは旅の目的次第だが、少なくとも選択肢が二つある温泉都市は、国内でもそう多くない。次は、丘に上がった宿が街の湯とどう関係を結び直すのかを追ってみたい。

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