瀬戸内海の生口島、レモン畑と石垣の続く塩町の路地裏に、二棟だけの旅館が静かに息づいている。Aman を生んだ Adrian Zecha が手がけるブランド「Azumi」の最初の宿、Azumi Setoda。140年前、廻船と製塩で財を成した堀内家の本邸を改めて編み直した、22室の小さな宿である。本誌が長く追いかけてきた Six Senses や Aman の系譜の延長にありながら、海・畑・湯を一棟で統合したこの試みは、滞在型ウェルネスの新しい文法を提示している。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. Azumi Setoda — 広島・尾道市瀬戸田町

瀬戸内の島の小さな港町に、22室だけの旅館。Aman の創業者が「滞在の余白」を再定義した一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  22室、小規模ラグジュアリー旅館。

目安価格 ¥95,000–¥143,000 / 泊 (2名1室・通常期)


Azumi Setoda — 広島・生口島瀬戸田 · 築140年の堀内家本邸を改修した22室の旅館外観
PHOTO: Azumi Setoda — 公式サイトを見る →

歴史と建築

江戸後期から明治にかけて、瀬戸田は瀬戸内航路の要衝として塩と廻船で栄えた港町である。その中心に1876年、堀内家が日本各地から職人と素材を集めて建てた本邸が、Azumi Setoda の母屋となった。改修を手がけたのは、Aman で多くのリゾートを設計してきたシンガポールの Studio Glitt。広間の梁、漆喰の壁、瓦屋根の輪郭——構造はほぼ手付かずに残しつつ、客室の内部は現代の旅人の身体寸法に合わせて再設計されている。庭は石と苔と季節の枝物で抑制され、視線は中庭の井戸から空へと自然に抜ける。建物の歴史と現代の素材感が衝突せず、むしろ互いを引き立てる稀有な改修である。

Azumi Setoda — 中庭。石と苔と季節の枝物が抑制された日本庭園
PHOTO: 中庭 — Azumi Setoda 公式

滞在の体験

22室は本館と離れに分かれており、最も小さい部屋でも床面積は40㎡を超える。畳の間と檜の浴槽、低くおさえた天井、そして縁側から望むのは、瀬戸内の塩町に続く石畳の路地。客室には派手な装飾はなく、季節の生花と一枚の書、そして窓辺に置かれた籐の椅子だけが置かれている。チェックインを済ませると、宿は旅人に一冊の小さな手帳を渡す。徒歩三分の隣棟 yubune は、地域住民にも開かれた銭湯として運営されており、宿泊者は無料で出入りができる。湯上がりに塩町の路地を歩いて旅館に戻る——その動線そのものが、Azumi の設計思想を体現している。

食事は朝夕ともに料亭のような構えではなく、地元の漁師から届くタイやタコ、契約農家のレモンや夏みかんを軸にした、現代的な日本食である。瀬戸田はかつて日本一のレモン産地として知られ、いまも島の斜面の畑では無農薬・有機栽培の取り組みが続いている。Azumi Setoda の食卓は、その地形と気候の結実をそのまま盛り付ける。

Azumi Setoda — 地元の漁師と契約農家から届く瀬戸内の食材を軸にした料理
PHOTO: 食卓 — Azumi Setoda 公式

集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、Azumi Setoda は総合 4.76 / 5.0 という高い水準で評価されている。傾向として浮き上がるのは、まず建物の保存と現代化のバランスへの満足度、次に運営の抑制された距離感、そして塩町の路地を歩いて湯と宿を行き来する動線の評価である。一方で、施設規模が小さいため夕食の選択肢が限られる点、しまなみ海道の島内立地ゆえアクセスに時間がかかる点は、計画段階で織り込んでおく必要がある。リピート客の比率が高く、二度目は yubune での宿泊を選ぶ旅人も少なくないと推察される。

立地と周辺

緯度 34.304、経度 133.085。本州側からは三原港、四国側からは尾道港から船で渡る——あるいはしまなみ海道を自転車で渡る人もいる。瀬戸田港から旅館まで徒歩約3分。島の中心には平山郁夫美術館と耕三寺があり、塩町には古い廻船問屋の石垣がそのまま残る。海と畑と寺と港、すべてが徒歩圏に折り重なる稀有な立地である。サンセットは島の西側、しおまち商店街の先の防波堤で迎えるのが地元の流儀。

Azumi Setoda — 瀬戸田のサンセット、瀬戸内海の島影と西陽
PHOTO: 瀬戸田のサンセット — Azumi Setoda 公式

こんな旅人に

  • 向く:
    Aman / Six Senses の系譜に馴染みのある旅人、二泊以上で滞在型を望むカップル、しまなみ海道を自転車で渡る計画を抱えた30–50代、抑制された日本の様式に距離感をもって触れたい海外からの旅行者
  • 向かない:
    観光地巡りで一泊だけ立ち寄る旅程(島の動線がもったいない)、幼児連れの家族旅行(隣の yubune は子供連れに開かれているが、本館は静謐な大人の宿)、派手なリゾート体験を期待する人

具体情報

  • 住所: 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
  • 客室数: 22室(本館と離れ)
  • 客室サイズ: 40〜100㎡前後
  • 最寄り港: 瀬戸田港から徒歩 約3分
  • アクセス: 三原港から高速船 約25分、尾道港から高速船 約40分
  • 開業: 2021年3月(築140年の旧堀内家本邸を改修)
  • 姉妹施設: 隣接の銭湯型宿泊施設 yubune(14室)
  • 緯度経度: 34.304225 / 133.085037

Media Picks Score

95 / 100 — Aman 創業者ブランドの初号という象徴性、塩町の歴史建築の繊細な改修、隣の銭湯と街と一体になった運営思想、瀬戸内の食材を地形そのままに編み直す食卓。一軒で農と海と湯を統合する試みは、今の日本のラグジュアリー宿泊の中でも稀有な位置を占める。

編集部から

Adrian Zecha が Aman を離れて立ち上げた Azumi は、巨大なリゾートではなく、地域の街そのものを舞台にしようとしている。瀬戸田の塩町を歩いていると、宿の客と地元の住民の動線が交差する場面に何度も出会う。湯と宿と路地が一体である状態——これはバリのウブドや、シェムリアップの旧街区でかつて Aman が試みた構造の、日本における展開である。次にはどこへ向かうのか。続く Azumi の展開を、本誌は注視している。


よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 編集部が推す時期は新緑の5月と、レモンが熟す11月〜2月。夏の瀬戸内は穏やかだが日差しが強く、自転車でしまなみ海道を渡る予定があるなら春か晩秋が動きやすい。台風シーズン(8月後半〜9月)は高速船の運休が出ることがある。

Q. 何泊から滞在の意味が出ますか?

A. 最低でも二泊。Azumi Setoda は宿の中で完結する施設ではなく、塩町の路地、隣の銭湯 yubune、しおまち商店街、サンセットの防波堤、そして瀬戸田港から渡る無人島の数々を含めて初めて全貌が見える。一泊の通過利用では、宿の設計思想の半分も体感できない。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 本館は静謐な大人の宿として設計されており、12歳以下の利用は制限される時期がある。家族連れであれば隣の yubune の方が動線が合う。yubune は銭湯と一体運営で、地元住民との距離も近い。

Q. アクセスは?

A. 本州側から: 新幹線で三原駅、徒歩で三原港へ、高速船で瀬戸田港まで約25分。四国側から: 尾道港から高速船で約40分。羽田からは広島空港経由で、空港から三原港まで車で約30分。しまなみ海道を自転車で尾道側から渡ると約30km、6〜8時間。

Q. 英語対応はありますか?

A. 国際ブランドである Azumi の初号として、英語対応は標準。海外メディアの掲載歴も多く、外国人比率は他の日本の小規模旅館に比べて高い。

本記事の参考情報

瀬戸内Finder — 瀬戸内エリアの公式観光情報
Wikipedia: 生口島 — 島の地理・歴史・産業の背景
Azumi Setoda 公式 — 客室・予約・アクセス

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