瀬戸内海の凪のうえに、国際ブランドが三軒のブティックリゾートを散らす——その構想が発表されたのは2023年12月のことだった。マンダリン オリエンタル ホテル グループは、東京に次ぐ国内2拠点目として「マンダリン オリエンタル 瀬戸内」を計画。高松と直島に2027年夏の先行開業を発表し、3軒目は別島で2030年以降に続く。1ブランドが内海に三軒を「散らして置く」という発想自体が、これまで都市の超高層を主戦場としてきたマンダリン オリエンタルにとって初の試みであり、世界の高級ブランドのなかでも極めて稀だ。本稿は、開業の二年前にあたる2026年現在地として、用地・港湾・建築言語・運営構想の四つを一軒の文脈で読み解く。

※ 想定価格は地元報道(四国新聞社・OHK岡山放送)に基づく1室1泊の参考値で、開業時の実販売料金とは異なる。本稿は公開された一次資料(公式プレスリリース・設計施工各社の公表資料)の集約に基づく開業前夜の文脈整理である。


マンダリン オリエンタル 瀬戸内 — 直島・本村地区 · 三宅家「おおみやけ」の長屋門と本館外観の建築パース
IMAGE: マンダリン オリエンタル 瀬戸内 — 直島・本村地区の本館予想パース(公式プレスリリースより) — マンダリン オリエンタル 公式プレスリリースを読む →

1. なぜ「瀬戸内に三軒」なのか — 構想の輪郭

マンダリン オリエンタルがこれまで世界各地で築いてきたのは、香港・ロンドン・ジュネーブ・東京・バンコクに代表される、都市の高層階を借景にした格式のあるアーバンホテルだ。リゾートも展開はあるが、いずれも単体施設としての完結性が前提だった。瀬戸内の構想はその枠組みを離れ、「内海」という地理そのものを舞台に三軒を散らす点で異質である。高松と直島の2027年夏が先行し、3軒目は別島で2030年以降に控える。三軒は独立した個性を持ちながら、滞在客は専用ヨットで結ぶ。これはマンダリン オリエンタルにとっても初の試みであり、グローバルでも例の少ない「ホテル群+海上動線」モデルだ。瀬戸内国際芸術祭が三年に一度の祝祭で世界の現代アート層を集めてきた島嶼に、定常的なラグジュアリー需要の受け皿を置く、という産業面の含意も大きい。

2. 高松——港湾型アーバンリゾートとして

「マンダリン オリエンタル 瀬戸内 − 高松」は、香川県高松市のサンポート地区B2街区に建つ、地上13階・地下1階・客室92室のアーバンリゾートである。サンポートはJR高松駅と高松港をつなぐ再開発エリアで、瀬戸内の島々への玄関口に立つ。延床面積は約18,500平方メートル、敷地面積は約5,000平方メートル、設計は山下設計と竹中工務店の共同、施工は竹中工務店が単独で受け持つ。着工は2024年8月1日、竣工は2027年2月15日が公表されている。低層部の付帯施設はレストラン、バー、スパ、ウェルネス、プール、宴会・会議機能で構成される。インテリアは英国のスピン社、ランドスケープはソラ・アソシエイツが担当することがマンダリン オリエンタルから発表されている。

都市部の高層階に格式を置く従来のマンダリン オリエンタル文脈と比べると、92室というサイズ感はかなり小さい。同社の東京は179室、香港(本店)は501室、バンコクは300室超と、いずれも200室を超える規模だ。高松92室は、ブティック寄りに振り切ったポートフォリオであり、室面積と公共スペース比率を都市型より大きく取る構成が予想される。サンポートは過去にJRホテルクレメント高松(300室規模)が長年運営されてきた地区で、これに国際ブランドが上書きされる構図ではなく、別ストックとして上乗せされる点も需要面で見ておきたい。

3. 直島——三宅家「おおみやけ」と重要文化財の活用

「マンダリン オリエンタル 瀬戸内 − 直島」は、本村地区の三宅家敷地内に計画される全22室の和モダンな日本旅館だ。三宅家は島内で「おおみやけ」と呼び習わされてきた旧庄屋家で、800年余にわたり同地に居を構えてきた。母屋と長屋門は国の登録有形文化財として残り、新ホテルはこの屋号「おおみやけ」を本館の名として引き継ぎ、母屋・長屋門は維持・改修する計画が公式発表されている。客室22室は本館スイートと離れ(ヴィラ)3棟を含む構成で、それぞれにプライベートテラスと日本庭園を備える。付帯施設はレストラン、バー、スパ、ジムだ。

本村地区は地中美術館・李禹煥美術館・家プロジェクトに代表される現代アートの島の中心集落で、これまで宿泊容量は限られていた。22室というサイズは集落の生活圏を圧迫しないギリギリの規模で、かつ国際ブランドの運営基準を成立させる最小単位でもある。重要文化財の建造物を客室棟に組み込む和モダンの作法は、京都・京の温所、奈良NIPPONIAなど先行事例があるが、国際ブランドが直接運営として手がける例はまだ少ない。マンダリン オリエンタルにとっては東京の都心型から大きく離れた、ブランド史上もっとも繊細な建築アプローチが要求されるプロジェクトになる。

4. ヨットで三軒を結ぶ——内海動線という発明

三軒を結ぶプライベートヨット・クルーズは、マンダリン オリエンタルが世界で初めて導入する宿泊客向けの移動体験になる。瀬戸内は内海ゆえに波が穏やかで、本州・四国・九州に囲まれた閉鎖性海域でありながら、点在する有人島・無人島の数が極めて多い。フェリーで結ばれた島々を観光客が日帰りで回るのが従来モデルだが、「宿泊地そのものが島を移動する」発想は内海でしか成立しにくい。高松港から直島・宮浦港まで、本来公共フェリーで約50分(高速旅客船で約30分)の距離を、専用ヨットで結ぶことで、滞在動線がホテルの一部に変わる。3軒目の場所はまだ未発表だが、本州側ではなく四国・小豆島・愛媛方面の島嶼が想定され、いずれもヨット動線が成立する海域だ。

5. 用地・所有・運営の三層構造

マンダリン オリエンタル ホテル グループ自体は「運営」を担う立場で、施設の所有・開発は別主体が担う。高松・直島ともに開発主体は合同会社四国まちづくり&おもてなしプランニングで、四国電力グループおよび地元企業が出資する事業体だ。これは星のや軽井沢や東京のホテルが運営と所有が分かれている構造に似ており、ブランドの運営品質と地元資本の長期保有が両立する形である。地元紙の報道では、サンポート街区の事業費は1室あたり概算3億円規模と試算されており、92室で約280億円・22室で約66億円・3軒目を含めた総事業費は400億円台に達する可能性がある。これは瀬戸内エリアにおける単一ブランドへの投資としては過去最大級だ。

6. 想定価格と需要構造

四国新聞社・OHK岡山放送など地元各社の取材では、想定室料は「1泊8万円以上」と発表者側から示されている。これはマンダリン オリエンタル東京(179室・スタンダード10〜15万円台)よりは抑えられているが、瀬戸内の既存最高クラス(ベネッセハウス・パークやリージェントポルトピア神戸)の標準帯を上回る水準だ。需要側は、瀬戸内国際芸術祭(次回2028年予定)の海外来訪者、地中美術館・豊島美術館・直島新美術館(2025年5月開館済)を周遊するアートツーリスト、四国遍路や讃岐うどん文化に関心を持つアジア圏富裕層が中心になる。年間を通じた稼働を考えると、芸術祭の祭年とそれ以外の谷年の差を吸収できるかが運営上の鍵で、ヨットクルーズによる「滞在の差別化」はその回答の一つとも読める。

7. 2026年現在地——着工と建設の進捗

2026年6月時点で、高松B2街区は2024年8月の地鎮祭から1年10か月が経過し、躯体工事の中盤を過ぎた段階にある。竣工予定は2027年2月15日、開業はそこから準備期間を経て2027年夏。直島の母屋・長屋門の保存改修と新築離れ棟の工事は、現代アート集落としての景観条例・建築規制との調整が長期化したため、高松よりやや遅れたタイミングで進められている。両物件とも公式予約サイトへの掲載はまだなく、マンダリン オリエンタルの「Future Properties」セクションでの紹介に留まる。一般向け予約開始は開業6〜9か月前、すなわち2026年秋〜2027年春が見込まれる。富裕層向けトラベル・コンサルタント経由のプレオープン・リスト登録は、それ以前に開始される可能性が高い。

8. 瀬戸内のホテル景観への含意

瀬戸内のラグジュアリー宿泊は、これまでベネッセハウス(直島・78室)、ベラビスタ スパ&マリーナ尾道(45室)、小豆島の一棟貸し系小規模リゾートといった、いずれも小規模で個性的な施設が点在する状態だった。マンダリン オリエンタルの三軒構想は、この景観に「国際ブランドの定常運営」と「複数物件の連携動線」という二つの新軸を持ち込む。芸術祭起点の需要を年間平準化できれば、瀬戸内全体の宿泊単価が中長期で押し上げられる可能性があり、地元の中小宿の競合圧というよりは、エリアの価格レンジを上方拡張する効果が大きいと見られる。一方で、本村集落のように生活圏と観光圏が重なる場所では、地元との関係構築が運営の成否を左右する。マンダリン オリエンタル直島がブランド史上もっとも繊細な運営になる、という冒頭の見立ては、ここに帰着する。

具体情報

  • 運営者: マンダリン オリエンタル ホテル グループ
  • 開発主体: 合同会社 四国まちづくり&おもてなしプランニング(四国電力グループ)
  • 高松所在地: 香川県高松市サンポート地区 B2街区(JR高松駅徒歩約3分、高松港隣接)
  • 高松規模: 92室、地上13階+地下1階、延床約18,500㎡、設計 山下設計+竹中工務店
  • 直島所在地: 香川県香川郡直島町本村地区(三宅家「おおみやけ」敷地内、宮浦港から町営バスで本村地区まで約6〜7分
  • 直島規模: 22室、本館スイート+離れ3棟、母屋・長屋門は国の登録有形文化財を保存改修
  • 3軒目: 別島・客室50室・wellness中心、2030年以降開業予定
  • 想定価格帯: 1泊8万円以上(地元報道、開業時の実料金は未確定)
  • 独自体験: 3軒間をプライベートヨットで結ぶクルーズ(マンダリン オリエンタル初の試み)
  • 姉妹ホテル: マンダリン オリエンタル東京(日本橋・179室・2005年開業)

Media Picks Score

91 / 100  評価の内訳: 国際ブランド適合度(マンダリン オリエンタル × 92+22+50室の三軒構想)/立地(高松港湾型+直島本村文化財)/建築言語(山下設計・竹中工務店・スピン社・ソラ・アソシエイツ)/独自体験(私的ヨット動線)/瀬戸内景観への文脈適合度。開業前のため公開レビュー実績は反映していないが、公式発表ベースのアンティシペーション・スコアとして示す。

よくある質問

Q. 予約はいつから始まりますか?

A. 公式予約サイトでの一般予約は、通常マンダリン オリエンタルでは開業の6〜9か月前から開始される。2027年夏開業の高松・直島の場合、2026年秋〜2027年春の予約開始が見込まれる。富裕層向けトラベル・コンサルタント経由のプレオープン・リストは、それ以前に登録受付が始まる可能性が高い。

Q. 高松と直島、どちらに泊まるべきですか?

A. 用途で分かれる。瀬戸内全体の周遊起点としては高松92室の港湾型アーバンリゾートが拠点として機能しやすく、四国全土への移動・讃岐うどん文化・栗林公園などの地域文化を組み合わせやすい。直島22室は本村集落の歴史と現代アート集積(地中美術館・李禹煥美術館・家プロジェクト・直島新美術館)に深く没入するための滞在で、最低2泊以上を想定したい。三軒のヨット連泊が実現すれば、両方を組み合わせる5〜7泊のロングステイが最も贅沢な使い方になる。

Q. 子連れで泊まれますか?

A. 公式の年齢制限は現時点で発表されていない。マンダリン オリエンタルは基本的に子連れ受け入れ可のブランドで、東京物件もファミリー向けプログラムを持つ。直島の和モダン旅館スタイルでは離れ棟(ヴィラ)が家族滞在に向く構成と推測される。開業時の客室カテゴリと添い寝条件の発表を待ちたい。

Q. ヨットクルーズはいつから利用できますか?

A. 三軒のうち高松・直島の二軒は2027年夏先行開業、3軒目は2030年以降の予定。ヨットクルーズ構想は三軒すべての開業を前提とする可能性が高く、本格運用は2030年以降と見るのが妥当。ただし二軒間の宿泊客送迎は2027年の開業時点で何らかの形で運用される可能性がある。詳細はマンダリン オリエンタルからの追加発表を待ちたい。

Q. 東京のマンダリン オリエンタルとはどう違いますか?

A. マンダリン オリエンタル東京は日本橋三井タワー上層階の179室、純粋な都市型ラグジュアリーで、ミシュランの星付きレストランやスパ機能が高層から東京を見下ろす構成だ。瀬戸内は対照的に内海の島嶼と港湾を地理として取り込み、3軒で計164室(高松92+直島22+3軒目50)という分散ポートフォリオを取る。「都市の格式」を「群島の格式」に翻訳する試みであり、滞在の主役は建築よりも海・島・アートの体験になる。

本記事の参考情報

マンダリン オリエンタル ホテル グループ プレスリリース(英文公式) — 三軒構想の一次資料
マンダリン オリエンタル ホテル グループ 日本語プレスリリース(PR TIMES) — 日本語版発表資料
竹中工務店ニュースリリース 2023-12-15 — 設計施工側からの公式資料
瀬戸内国際芸術祭 公式サイト — 直島・本村地区の現代アート文脈

編集部から

開業まで残り約13か月。今、瀬戸内に立って見えるのは、ようやく姿を現しはじめた高松B2街区の躯体と、本村集落の中で長屋門が修復を受ける姿だ。マンダリン オリエンタルが世界各地で培った「都市の格式」を、群島の海と光と歴史にどう翻訳するか。本稿は開業二年前の現在地を一軒の文脈で整理したが、2027年夏に二軒が開いた瞬間、瀬戸内という地理そのものが世界の高級リゾート地図に再配置される可能性がある。次回は3軒目の場所が発表され次第、三軒のヨット動線が描き出す海路を実際の航路図に重ねて読み直したい。

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